皆様、こんにちは。
社会保険労務士の齊藤です。
過去に本コラムでも取り上げたことがありますが、キャリアアップ助成金は多くの企業に利用されている雇用関係の助成金の一つです。中でも有期雇用労働者等を正社員に転換した場合に助成金を受けることができる「正社員化コース」は広く利用されている印象があります。
そのキャリアアップ助成金は毎年度、制度や事務取扱いの変更があり、令和7年度においてもいくつかの制度変更等がありました。制度変更等は、基本的に取組み(正社員化コースの場合は正社員に転換することが取組み)ベースで適用されるのが通例で、正社員転換から6か月経過後に助成金の支給申請が可能になることを踏まえると、令和7年4月1日付の正社員転換分の支給申請が可能になる今ぐらいの時期から令和7年度の制度に則った支給申請がなされていることになります。
そこで今回は、令和7年度の取組みから適用されているキャリアアップ助成金の正社員化コースの新たな制度変更等について書きたいと思います。
支給額は重点支援対象者か否で異なる
令和7年度は全体的に支給額の見直しがあり、令和6年度の支給額と比較した場合、全体的な方向性としては減額になっています。例えば、多くの企業に利用されている有期雇用労働者から正社員への転換のケースでは、令和6年度は「40万円×2期=80万円」を支給申請することができましたが、令和7年度では原則「40万円」の1回限りの支給申請になりました。ただし、対象の労働者が「重点支援対象者」に該当した場合は、昨年度と同様「40万円×2期=80万円」を支給申請することができるようになっています。詳細については下記をご参照ください。
| 対象 | 企業規模 | 有期雇用労働者からの転換 | 無期雇用労働者からの転換 |
| 原則 | 中小企業 | 40万円 | 20万円 |
| 大企業 | 30万円 | 15万円 | |
| 重点支援対象者 | 中小企業 | 80万円(40万円×2期)※ | 40万円(20万円×2期)※ |
| 大企業 | 60万円(30万円×2期)※ | 30万円(15万円×2期)※ |
※「正社員転換から6か月経過後」が1期目の支給申請。「正社員転換から6か月経過」からさらに6か月経過後が2期目の支給申請。
■重点支援対象者
重点支援対象者とは次のa~cのいずれかに該当する者を指します。
a:雇入れから3年以上の有期雇用労働者
b:雇入れから3年未満で、次の①、②いずれにも該当する有期雇用労働者
①過去5年間に正規雇用労働者であった期間が合計1年以下
②過去1年間に正規雇用労働者として雇用されていない
c:派遣労働者、母子家庭の母等、人材開発支援助成金の特定の訓練修了者
「直近数年において正社員雇用の機会に恵まれていなかった労働者を正社員転換した場合に支給額を優遇する」といったような制度変更がなされた形になります。
新規学卒者の入社後1年未満の正社員転換は対象外に
これまでは新規学卒者も正社員化コースの対象でしたが、令和7年度では、新規学卒者が入社後1年未満に正社員転換した場合は支給申請の対象外になりました。一般的に新規学卒者は入社当初から正社員として採用されることが多いと考えられますが、キャリアアップ助成金の支給申請を目的に(不必要に待遇を落として)有期雇用労働者として入社させ、6か月経過後に正社員転換させるといったキャリアアップ助成金の趣旨に合致しない支給申請がみられたこと等から制度の変更がなされることになりました。
この変更により、新規学卒者については最低でも1年間は有期雇用労働者等として雇用されていないと正社員化コースの対象外になりますので注意が必要と言えます。
なお、キャリアアップ助成金の制度上、新規学卒者とは、高校や大学等を新たに卒業する者で卒業年度の3月31日までに内定を得た者とされています。
支給申請時に出勤簿やタイムカードの提出が不要になる場合も
令和6年度以前においては、支給申請時の添付書類の一つとして出勤簿やタイムカードの提出が必要とされていましたが、令和7年度はこの事務取扱いが変わっており、同じく添付書類の一つである賃金台帳にて出勤日数および労働時間数(時間外勤務などの勤務状況の詳細)が確認できない場合に限り、賃金台帳と同様の期間分の出勤簿やタイムカードを提出するルールになりました。つまり、賃金台帳で出勤日数等が確認できる状態であれば、出勤簿やタイムカードの提出が不要になったのです。
賃金台帳は法定帳簿につき記載された出勤日数や労働時間に誤りはないとう大前提の元、労働局側の作業効率化等を目的になされた事務取扱いの変更と思われますが、事業者側にとってみても大きな事務負担減と言えるのではないでしょうか。なお、賃金台帳だけで割増賃金の計算等が確認できない場合は出勤簿やタイムカードの提出を求められる可能性はありますので、その点は留意しましょう。
キャリアアップ計画書が認定制から届出制に
こちらはキャリアアップ助成金全てのコースに該当する事務取扱いの変更になります。
これまでキャリアアップ計画書については、各コースの取組実施日の前日までに管轄の労働局長に提出し、認定を受ける必要がありましたが、令和7年度から届出のみで可となりました。なお、事前に提出が必要という点ではこれまでと同じで、また、記載内容に不備等があった場合には労働局から修正を求められることも従前どおりとなっていますので、事業者側の手続きに何か劇的な変化が生じた訳ではない事務取扱いの変更と言えます。
今回は令和7年度中に正社員転換する場合のキャリアアップ助成金に関するコラムでした。
これからも、本コラムを通じて皆様へ有益な情報をお届けできればと思います。
以上