いつも船井総合研究所 渡邊龍信のコラムを御愛読いただきありがとうございます。この1ヶ月、多くの経営者の方々と対話し、現場をコンサルティングする中で見えてきた、市場のリアルな姿と未来への提言をまとめさせていただきます。
まずは全国動向からです。
2025年11月売上は先月対比で
4円:101%
1円:101%
20円:103%
5円:103%
全体:102%
でした。
また去年対比では
4円:115%
1円:111%
20円:126%
5円:135%
全体:119%
という結果でした。
10月の厳しい落ち込みから一転、11月の市場は回復基調を見せました。3連休が2回あったことや全国ファン感謝デーといった外部要因に加え、11月は絶対に市場が悪くなると見据えた各ホール様が講じた事前対策が功を奏した結果と言えるでしょう。しかし、この一時の安堵の裏で、業界の構造は静かに、そして劇的に変化しています。今回は、11月の動向を振り返りつつ、2024年に待ち受ける大きなうねりをどう乗り越えていくべきか、私の考察を深掘りします。
もはや「文化」となった特定日の重要性
無視することは許されない潮流、それが月と日が重なる「ゾロ目の日」の集客力です。ある大手法人様が仕掛けたことを皮切りに、今やユーザーにとって特別な日として完全に定着しました。データを見ても、2025年のゾロ目の日は前年比で4円パチンコが112%、20円スロットが113%と、全国的に見ても明らかに客数が上昇しています。驚くべきは、これがイベント実施店舗に限った話ではないという点です。たとえ自店で特別なイベントを仕掛けなくとも、競合店が動く日に何らかの対抗策、いわゆる「ファイティングポーズ」を示さなければ、顧客は確実に奪われます。来年以降、1月1日、2月2日といった日は、年間を通じて最重要営業日となることを肝に銘じるべきです。
スマート遊技機の明暗と、信頼を失った機械の末路
スマート遊技機の動向に目を向けると、スマスロとスマパチでその評価は明確に分かれました。スマスロは現在の全国平均52%から2026年には65%に達する見込みで、市場を牽引し続けることは間違いありません。一方、スマパチは現在の25%から大きくは変わらない見通しです。ユニット増設工事も閑散としており、4円パチンコでの拡大は見込めず、代わりに1円パチンコへの導入が増加傾向にあります。
そして、2026年の市場を完全に支配するのが、ある人気シリーズのスマスロ最新作です。当初35,000台とされた導入予定は、他機種の減産・延期の影響を受け、45,000台規模にまで膨れ上がる可能性が濃厚です。タイミング、機械の出来、話題性、全てが揃ったこの最重要機種を、いかに確保し、最大限に活用できるか。それが2026年の業績を占うと言っても過言ではないでしょう。こけてしまったら結構な店舗が打撃を受けてしまいますね、、、
一方で、今回は大きな期待を背負って登場したあるスマスロ機は、大きな教訓を残しました。
このコラムでもとりあげた機械で、私のご支援先でも最低限の購入しかせず、競合店は1boxでしたが、何も影響はなかったです。
最大の失敗要因は、メーカー担当が「不遇となるモードが存在しない」と発言したにもかかわらず、実際には存在しているかのようにみえていたことです。これによりユーザーの信頼を大きく損ないました。ゲーム性を見た時、スロットに詳しい人たちは「存在する」と見抜いてたので、損はせずに済みましたね。高設定でも安定しないゲーム性も相まって、前作ファンからの期待を裏切る結果となり、稼働は低迷しています。ですが、私の支援先でも台数を持っていて、20,000稼動を切らない店舗があります。それは、「前作がまだまだ稼働が良い」という状況で導入を迎えた場合です。このことから、1月のメイン機も前作の扱いから変わりそうですね。12月からの仕掛けをしていくのが良いでしょう。機械のポテンシャルだけに依存する戦略の危険性を、我々は改めて突きつけられました。
経営幹部に求められる視点の変化と「人間力」
この1ヶ月、ある大手企業の経営幹部の方と深い対話をする機会がありました。その方が語られた言葉は、非常に示唆に富むものでした。営業の最前線にいた頃は、目の前の店舗の1年間の業績という短期的な戦術に集中し、自身が実行した施策がすぐに成果として現れることに楽しさや達成感を感じていた。しかし、経営幹部となった今は、パチンコ事業だけでなく、様々な分野の子会社を含めたグループ全体の10年後、20年後を見据えた長期戦略に視点が移った、と。
そして、その中で最も後悔しているのは、未来を担う「戦略家」、すなわち次期経営幹部候補への戦略的投資が不足していたことだと率直に語られました。当時は目の前の業績を上げるプレイヤーの育成に注力しすぎてしまい、結果として、自身が経営幹部になった際に戦略的思考で議論できる層の薄さを痛感しているとのことです。この経験から、未来の企業発展のためには、目先の成果だけでなく、長期的な視点での人材育成、特に経営を担える人材への時間投資が極めて重要であると力説されました。
さらに印象的だったのは、幹部育成における「上手い上司」と「下手な上司」の違いについてのお話です。育成が上手い上司は、思い切って責任を持たせて任せ、口出しせずに見守り、結果に対してシビアにジャッジする。そして失敗を未来への投資として受け入れる姿勢を持っている。一方で、育成が下手な上司は、部下に対して自分と同じやり方や細かい手法を求めすぎてしまう。このような態度は、部下から考える機会や成長の機会を奪い、結果的に指示待ち人間を生み出し、個人と会社の成長を妨げてしまうと自己批判的に分析されていました。
この対話を通じて、私自身も改めて気づかされたことがあります。それは、組織の成長は「人」にしか宿らないということです。どれだけ優れた機械を導入しても、どれだけ潤沢な予算があっても、それを活かすのは結局「人」なのです。
現場レベルでも、この「人間力」の重要性は増しています。厳しい市場環境の中、20円スロットの売上を「上げきる」努力が足りていないホールはまだ多いと感じます。具体的には、競合店の特定日に自店の施策をぶつける「特定日乗っかり戦略」や、大手が見過ごしがちな中・低単価機種の徹底的な活用、そしてスタッフによる積極的な機種推奨など、人間力を介した地道な努力です。販促物が景色と化す中で、スタッフの「声かけ」一つが差別化に繋がります。機械に頼るのではなく、人の力で機種を育てる。この当たり前のことが、今ほど求められている時代はないのかもしれません。皆様も認識されてると思います。強い店舗ほど、強い企業ほど、声掛けなどのアナログを徹底してます。効率を求めすぎて、本質を見失ってはいけないなと思いました。
まとめ:2026年、短期戦略と組織の一体感で未来を拓く
2026年始めは、絶対的な主役機を中心に市場が動きます。この短期的な流れに全力で乗ることは必須です。しかし、その裏で進行する「特定日の重要性」「市場の三極化」という大きな構造変化から目を背けてはなりません。
機械予算を大幅に削減されながらも、過去最高の売上を達成した企業があります。その成功の要因は、リソースの多寡ではなく「組織の一体感」でした。経営層から一般社員まで全員が同じ方向を向き、現場が諦めずに改善策を出し続ける。このような一丸となった取り組みこそが、厳しい市場環境を乗り越える力になります。
自店の立ち位置を冷静に分析し、どの土俵で戦うのかを決定する必要があります。そして、私が取り掛かっている開発においてはAIデバイスによる顧客分析をしているのですが、そういった新しい技術にもアンテナを張り、よりCRMの強化をはかっています。これらの次の一手を模索し続けることが必要です。短期的な機種戦略と、長期的な店舗戦略、そして何よりも「折れない心」を持った組織としての実行力。この三つを兼ね備えることこそが、変化の時代を生き抜く唯一の道筋となるでしょう。

