皆様、こんにちは。
社会保険労務士の齊藤です。
今年の10月から社会保険の加入対象が拡大されていますが、皆様ご存知でしょうか。
拡大対象のターゲットになっているのはアルバイトやパートで、加入基準を満たしている場合に限りますが、より多くのアルバイト等に社会保険の加入義務が生じることになるものでした。
会社からの事前説明なく突然社会保険に加入させるようなことがあった場合、会社に対する不信感等から思わぬトラブルに発展する可能性もありますので、社会保険の適用拡大について改めて理解を深めておきましょう。
社会保険加入義務の基本的な考え方
まずは社会保険の加入義務に関する基本的な考え方の整理になります。
■適用事業所
法人や一部の個人事業主は、所定の要件を満たすと社会保険が適用されている事業所として取り扱われることとなっており、それら法人等のことを適用事業所と言います。
所定の要件とは従業員(役員含む)数のことで、法人の場合、1人でも従業員を雇用していれば適用事業所に該当します。役員のみの場合も同様です。
個人事業主の場合は法人と異なり、まず適用事業所に該当するかは従業員数が5人以上か否かで線引きされていて、従業員数が5人以上だった場合に、一定の業種に該当すると適用事業所になる仕組みです。この一定の業種は法定17業種と呼ばれ、建設業や金融業等がそれに当たります。そもそも従業員数が5人未満の個人事業主や、法定17業種には当たらない飲食店業等の個人事業主は適用事業所にはなりません(任意に適用事業所になる制度あり)。
なお、所定の要件を満たすと適用事業所として取り扱われると書きましたが、法人設立時等に行政側で自動的に適用事業所として登録や認定するような仕組みにはなっておらず、自ら手を挙げて適用事業所になるための手続きをする必要があります。そのため、本来は適用事業所に該当しているのに、手続き漏れ等が原因で従業員が社会保険に未加入になっているケースはある程度みられますので、これから法人の設立等を検討している方は注意が必要です。
■社会保険の加入義務
社会保険に加入する従業員を被保険者と言いますが、一部の例外はあるものの、基本的に適用事業所に勤務する下記の従業員は被保険者に該当します。つまり、社会保険への加入義務がある人です。
- 正社員
- 週所定労働時間が正社員の3/4以上、かつ、月所定労働日数が正社員の3/4以上の従業員
何となくイメージできるかもしれませんが、正社員はその時点で被保険者の対象となります(制度上は「通常の労働者」と言いますが、「通常の労働者」を正社員に置き換えても差し支えないです)。正社員が加入のベースとなりつつ、週所定労働時間と月所定労働日数がいずれも正社員の3/4以上の従業員にも加入義務があるという考え方です。
例えば、正社員の週所定労働時間が40時間、月所定労働日数が20日という会社の場合、週所定労働時間が30時間以上、かつ、月所定労働日数が15日以上の従業員も社会保険に加入させる必要があります。週所定労働時間と月所定労働日数は「かつ」ですので、いずれかが未満だった場合、加入義務はありません。
パチンコ店では月の出勤日数は多いものの1日あたり2、3時間しか勤務しないような清掃要員のアルバイトやパートがいたりしますが、そのようなアルバイト等は、「週所定労働時間が正社員の3/4以上」に達していないことが多く、結果、社会保険の加入義務を満たしていないことがほとんどです。
一部の短時間労働者には別の加入基準がある
上記が社会保険の加入義務に関する原則的なルールになりますが、一部の短時間労働者には別の加入基準が存在します。
短時間労働者とは制度上、適用事業所に勤務する「週所定労働時間が正社員の3/4未満、または、月所定労働日数が正社員の3/4未満の従業員」を言い、この内、特定適用事業所に勤務する下記の3つの要件に該当する短時間労働者には社会保険の加入義務が生じます。特定適用事業所とは、従業員数が51人以上の適用事業所のことを指します。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 2か月を超える雇用の見込みがある
- 学生ではない
「一部の短時間労働者」と書いたとおり、あくまで特定適用事業所に勤務する短時間労働者が対象です。例えば、従業員数10人程度の会社に勤務する短時間労働者は、上記3つの要件に該当していても加入義務は生じません。また、そもそも適用事業所に該当していない個人事業主に雇われている場合も対象にはなりません。
2026年10月から賃金要件が撤廃された
前述のとおり、特定適用事業所に勤務する短時間労働者は3つの要件に該当すれば社会保険に加入することになります。これまでは「所定内賃金の月額が88,000円以上」という賃金要件がありましたが、2026年10月にこの要件が撤廃されました。この要件のことを「106万円の壁」と称することもありましたが、「106万円の壁」がなくなった形となります。
賃金要件が撤廃されるまでは、扶養維持を意識して、多少勤務しても毎月の給与が88,000円以上にならないようにする傾向が少なからずありました。しかしながら、今回の撤廃により、給与の多寡は一切関係なくなったため、学生ではないアルバイト等が扶養を維持するためには、「週の所定労働時間が20時間未満」をキープする必要があります。
■従業員数の考え方
特定適用事業所の従業員数は「厚生年金保険の被保険者数」でカウントします。短時間労働者は含みません。また、12か月の内、6か月以上で従業員数が51人以上いることが見込まれるかが判断基準になります。ですので、例えば、正社員40人(全員厚生年金保険の被保険者)、アルバイト160人(全員短時間労働者)、計200人の会社において、過去に厚生年金保険の被保険者数が51人以上になったことはなく、また、今後も変動がないと見込まれるような場合、つまり、12か月で6か月以上51人以上になる見込みがない場合は特定適用事業所に該当しないこととなります。
■今後の特定適用事業所の取扱い
現在は従業員数が51人以上の場合に特定適用事業所になり得ますが、段階的に対象を拡大することになっていて、下記のようなスケジュールが決定しています。
2027年10月から 従業員数36人以上の適用事業所
2029年10月から 従業員数21人以上の適用事業所
2032年10月から 従業員数11人以上の適用事業所
2035年10月から 従業員数1人以上の適用事業所
■2029年10月には法定17業種も撤廃に
2029年10月からは、先述の個人事業主の場合に適用される法定17業種という括りが撤廃されることにもなっているため、将来的により多くのアルバイト等に社会保険への加入義務が生じることになると言えます。なお、2029年10月時点で、従前より事業を展開している法定17業種に当てはまらない業種の個人事業主については、当分の間、引き続き法定17業種に当てはまらないものとして適用事業所の対象外になることとされています。例えば、2029年10月前から飲食店業(法定17業種に当てはまらない業種)を営む個人事業主に関しては、以前から従業員を5人以上雇っていても、また、2029年10月以降に従業員数が5人以上になっても、しばらくの間は適用事業所になることはありません。
■短時間労働者に対する事前の説明等
今後は社会保険の加入対象者が増えてきますので、加入義務が生じ得る短時間労働者に対しては、事前に加入の可能性等を説明しておくことが望ましいと言えます。その際、傷病手当金や将来の厚生年金の受給等、社会保険の加入メリットを説明すれば積極的な社会保険への加入に繋がる可能性があります。また、社会保険の加入をきっかけに、勤務時間の増加や正社員等へのキャリアアップも期待でき、ひいては人手不足の解消や会社業績の向上に結びつくかもしれません。一方で、依然扶養の範囲内の勤務を希望する短時間労働者については、週の所定労働時間が20時間を超えないようにする等の調整が必要になります。
今回は、社会保険の適用拡大についてのコラムでした。
これからも、本コラムを通じて皆様へ有益な情報をお届けできればと思います。
以上