社会保険労務士の齊藤です。
今回は最低賃金についてのコラムになります。
全国平均は昨年比55円アップとなる1,176円
7月28日、厚生労働省より、2026年度の最低賃金の引き上げ目安額が公表され、全国平均で55円となりました。目安額どおりに引き上げが行われた場合は、最低賃金の全国平均は1,176円になります。
最低賃金は、厚生労働省で都道府県ごとの引き上げの目安額を決め、その目安額を元に雇用状況や物価等、地域の実情を考慮して各都道府県にて引き上げ額を決定する仕組みです。具体的には、各都道府県の地方最低賃金審議会(公益代表、労働者代表、使用者代表で構成された組織)で審議した後、その審議結果を都道府県労働局長に答申し、異議の申出等を経て、最終的に都道府県労働局長が決定する流れになっています。答申後に引き上げ額が変わることはないのが通例で、実質、答申=引き上げ額の確定と言えます。
例年、8月中旬過ぎには各都道府県での答申は終わっているのですが、今年は本コラム作成時点(8月23日時点。以降同じ。)では10以上の都道府県で答申が終わっていません(筆者調べ)。そのような地域では、目安額を上回る引き上げを望む労働者側の意見と、より目安額に近い引き上げを望む使用者側の意見の調整が難航していることが推測されます。
全都道府県の引き上げ額が明らかになっていない状況ではありますが、昨年ほどではないものの目安額を超える引き上げが見られており、全国平均で1,176円以上になるのは必至と言えます。下記が目安額を上回る主な引き上げです。
<目安額を上回る主な引き上げ>
- 福島県:目安額を5円上回る61円の引き上げ
- 宮城県、鳥取県、愛媛県:目安額を4円上回る60円の引き上げ
- 秋田県、石川県、福井県、島根県:目安額を3円上回る59円の引き上げ
下記は主な都市圏の答申状況です。
<主な都市圏の答申状況>
- 東京都:目安額どおり54円の引き上げ(1,280円に改正)
- 神奈川県:目安額どおり54円の引き上げ(1,279円に改正)
- 千葉県:目安額を1円上回る55円の引き上げ(1,195円に改正)
- 愛知県:目安額を1円上回る55円の引き上げ(1,195円に改正)
- 大阪府:目安額どおり54円の引き上げ(1,231円に改正)
なお、九州・沖縄8県に関しては、本コラム作成時点では福岡県の1県しか答申が終わっていません。地方圏においては、最低賃金が低いことによる他の地域への労働力の流出に対して強い危機意識を有していますので、都市圏よりも審議に時間を要していると思われます。
改正時期と留意点
それでは新たな最低賃金はいつから改正されるのでしょうか。昨年は、大幅な引き上げが相次いだことから11月以降の改正が多く見られましたが、今年は例年どおり、10月1日改正を始めとした10月改正が多くなる見込みとなっています。
改正日以降の勤務分は新たな最低賃金以上の時給で給与計算する必要があります。給与計算区域の当初から時給を改定するのか、給与計算区域の途中(最低賃金が改正されるタイミング)から時給を改定するのかなども社内で認識を合わせておくことが必要です。加えて、時給改定時においては事前の従業員への説明や雇用契約の再締結などもお忘れのないようご注意ください。
月給制の従業員も要確認
「最低賃金は時給制のアルバイトやパートだけを確認すればよい」といったお考えをお持ちの方、結構多いです。決してそのようなことはなく、最低賃金は月給制の従業員にも適用されます。
■時給の確認方法
月給制の場合における時給は以下の計算式で算出することができます。
- 時給=月給÷1箇月平均所定労働時間
例えば、「月給240,000円、1箇月平均所定労働時間160時間」だった場合、時給は「240,000円÷160時間=1,500円」となります。
時給を算出(最低賃金を確認)するときの「月給」とは、実際に支払われる賃金から以下の賃金等を除いたものがそれに該当します。
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
- 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
- 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
- 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
- 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
従いまして、例えば「基本給200,000円、通勤手当20,000円、1箇月平均所定労働時間160時間」のようなケースでは、「(200,000円+20,000円)÷160時間=1,375円」と計算するのではなく、「200,000円÷160時間=1,250円」と計算します。通勤手当は除かなければなりません。除外すべき賃金を誤って計算対象としていたことによって、「実は時給が最低賃金を下回っていた」といったことがないよう計算方法には十分な注意が必要です。
■固定時間外手当の支給がある場合も要注意
手当の一部として、固定(みなし)の時間外手当や深夜手当を支給している場合は、そこもケアする必要があります。
例えば、本年10月1日から最低賃金1,280円が適用される東京都に所在の会社において、「基本給200,000円、時間外40時間分の固定時間外手当62,500円、1箇月平均所定労働時間160時間」のような給与状況があった場合、時給は「200,000円÷160時間=1,250円」ですので、時給ベースで1,280円以上になるよう、少なくとも基本給を「1,280円×160時間=204,800円」とする必要があります。この時、固定時間外手当についても、時給の改定にあわせる形で「1,250円×1.25×40時間=62,500円」から「1,280円×1.25×40時間=64,000円」へ改定する必要があります。
固定時間外手当の改定を失念すると、将来的に「最低賃金は満たしていたものの未払い賃金が生じていた」といった事象が起こり得ますので注意しましょう。
今回は最低賃金について書かせていただきました。
これからも、本コラムを通じて皆様へ有益な情報をお届けできればと思います。
以上